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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1060号 判決

判   決

和歌山市山吹丁四番地の一

控訴人

小畑モト

右同所

小畑和雄

右両名訴訟代理人弁護士

中谷鉄也

右訴訟代理人復弁護士

古川毅

高槻市北園町一九一番地

被控訴人

湯川宗十郎

右訴訟代理人弁護士

植野周助

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人等敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、被控訴代理人において、「本件土地の賃料額について、昭和三一年二月一三日、被控訴人と控訴人等との間に、和歌山簡易裁判所において、従来の坪当り一ケ月金三〇円を金四五円に借上げする旨の調停が成立したことは認める。被控訴人は控訴人等に対し、本件訴状の送達により、本件土地の同三二年八月一日以降の賃料を坪当り一ケ月金九〇円に増額する旨の意思表示をしたものである。」と述べ、<証拠省略>たほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

本訴請求に対する当裁判所の判断は、次の通り附加訂正するほか原判決理由に説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。

一、原判決理由第四項説示の理由のほか、当審における鑑定人山田武二、近藤威及び佃順太郎の各鑑定の結果を考え合わせると、被控訴人の本件賃料増額の意思表示が控訴人等に到達した昭和三二年八月一六日当時における本件土地の適正賃料は、坪当り一ケ月金七〇円を下らなかつたことが認められ、右認定に反する原審における鑑定人花田元鬼及び山本弘三の各鑑定の結果の一部は採用できない。

二、控訴人等は、本件土地の賃料額については、昭和三一年二月一三日、和歌山簡易裁判所において、控訴人等と被控訴人との間に、従来の坪当り一ケ月金三〇円を金四五円とする旨の調停が成立しているところ、被控訴人は、その後僅かに一年二ケ月目に本件増額請求をしたものであるから、被控訴人には未だ右増額請求権が発生していないと主張し、右主張の通り調停が成立したことは当事者間に争いがなく、右調停によつて、本件土地の賃料が同月一日から金四五円に増額されたものであることは、成立に争いのない乙第一号証によつて認められ、右調停成立から前示本件訴状送達による増額請求の日までに一年六ケ月の期間を置くものであることは計算上明かなところであるが、右期間内に本件土地の価額が著しく騰貴していること、即ち、本件増額請求当時の本件土地の価額を標準にすれば、調停成立当時における本件土地の価額がその七六%に過ぎなかつたことが前掲鑑定人山田武二の鑑定の結果によつて認められる(成立に争いのない乙第二号証によると、昭和三一年度及び三二年度における本件土地の固定資産評価額が同額であることが認められるけれども、右は一応の課税標準価額を示すに過ぎないから、この事実をもつて右認定を左右するに足らず、他に右認定を覆えすに足る確証がない。)から、右割合を本件適正賃料一ケ月金七〇円に乗ずると、調停成立当時における本件土地の適正賃料は金五三円を下らなかつたことが計算上明かであるところ、このように前回の増額の際、その増額された賃料額が適正額に達していない場合には(調停手続においては、賃貸人と賃借人が互譲し、かつ、調停委員の説得その他諸種の関係から、賃料が適正額より少額と定められる事例の多いことは当裁判所に顕著である。)。次の増額請求の可否を判断する際に右事実を考慮し得るものと解すべきであるから、右調停により定められた賃料額が当時の適正賃料額より少くとも金八円(一五%強)少額であつた事実に、右本件土地価額の騰貴の割合を勘案すれば、被控訴人の本件増額請求が調停による増額後一年六月経過後になされたからといつて、被控訴人に本件増額請求権がないということができない。

三、そうすると、被控訴人の本件賃料増額請求中、昭和三二年八月一七日から坪当り一ケ月金七〇円の範囲内で確定を求める部分を正当として認容した原判決は結局正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文の通り判決する。

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 小野田 常太郎

裁判官 亀 井 左 取

裁判官 下 出 義 明

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